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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和58年(ラ)20号 決定

抗告人 甲野太郎

右代理人弁護士 八十島幹二

同 吉川嘉和

同 吉村悟

相手方 乙山春子

事件本人 甲野春代

昭和五四年三月一日生

主文

原審判を取り消す。

本件を福井家庭裁判所に差し戻す。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由

別紙「抗告の申立書」(写)及び「抗告理由書」(写)記載のとおり。

第二当裁判所の判断

一  原審判は「事件本人は相手方と亡乙山一郎(以下「一郎」という)の長女であるが、相手方と一郎は昭和五五年六月二六日、一郎を事件本人の親権者と定めて協議離婚したところ、昭和五七年一一月九日一郎が死亡するに至ったため。」のみを理由として事件本人の親権者を一郎から相手方に変更するとしている。

二  本件記録によると、原審判が右親権者変更の理由とする事実のほか、次の各事実が認められる。

1  相手方と一郎及び事件本人は右協議離婚以前は一郎の父母(事件本人の父方祖父母)の家で同居していたが、離婚により相手方が同家を去った後及び一郎が死亡した後においても事件本人は右祖父母方で養育監護され、現在保育園に通園している。

2  原裁判所に対し相手方より本件親権者変更の申立がなされるに先立ち、事件本人の祖父である抗告人より事件本人の後見人選任申立(福井家庭裁判所昭和五七年(家)第九二三号)がなされ、該申立は原審裁判所に係属中である。

3  相手方は、離婚後、住所、職業を転々としたが、昭和五七年一〇月より紡績工場に就職し、寮生活をしており、現時点においては直接事件本人を監護養育することは困難であり、自己の実家の協力が得られないため、仮に事件本人を引取るにしても、相手方自身の収入、居住関係が安定するまでは、事件本人を養育施設に入所させることを考えている状況である。

4  一方、抗告人は事件本人を可愛がり、将来は事件本人に養子を迎え家を継がせたいと思い、仮に相手方が事件本人の親権者に定められても、引続き抗告人のもとで事件本人の監護養育することを強く希望し、相手方に対して事件本人の養育費を求める考えはもっていないし、事件本人が養護施設に預けられるようになることは到底忍び難いと言っている。

三  抗告理由一について

離婚により親権者となった親が死亡したのち、生存する他方の実親から親権者変更申立があった場合には、民法第八一九条六項を準用し、右他方の親を親権者に定めることが未成年子の福祉のため適当であるときは親権者変更の審判をなすことができると解するのが相当である。抗告人の主張は採用できない。

四  しかしながら、右のように、生存する他方の親の申立にかゝる親権者変更について審判をなすに当たっては、当然に親権者変更の審判をなすべきものでなく、生存する親を親権者に定めることが未成年子の福祉を害さないものであるか、右相当性についての検討を経るべきであるが、さらに本件においては、前記二の諸事情を勘案すると、相手方を事件本人の親権者に変更することが適当であるとしても、右審判において同時に監護者の指定をなすことが事件本人のため、必要であると考えられるのである。

五  よって、家事審判規則一九条一項により、原審判を取り消し、叙上本件親権者変更の相当性、監護者指定につき更に審理を尽させるため、本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山内茂克 裁判官 三浦伊佐雄 松村恒)

〈以下省略〉

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